日経平均株価がバブル崩壊後、33年ぶりの高値を更新し、高値圏で推移しています。その要因の一つに2023年3月に東京証券取引所が上場企業に向けて発信した「資本コストや株価を意識した経営の実現」という文書が挙げられます。これは2022年4月から東京証券取引所が市場区分を「プライム」「スタンダード」「グロース」に見直しましたが、日本を代表する企業の位置づけであるプライム市場でも、PBR(時価総額÷純資産額)が1倍を下回る会社が半数ほどあることを問題視してのことです。今回は、盛況な株式相場の中で、個別銘柄への投資を検討している人向けに、今後上昇するであろう銘柄の見つけ方を紹介しようと思います。なお、言わずもがなですが、このやり方によってスクリーングした銘柄が必ず上昇することをお約束するものではありません。一つの参考として記事を読んでいただければ嬉しいです。
資本コストや株価を意識した経営の実現
まず、東証が上記の「資本コストや株価を意識した経営の実現」企業に何を求めたのか、具体的に見ていきます。
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- 上場会社の皆様に、資本コストや株価を意識した経営を実践していただく観点から、まずは自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その内容や市場評価に関して、取締役会で現状を分析・評価したうえで、改善に向けた計画を策定・開示し、その後も投資者との対話の中で取組みをアップデートしていく、といった一連の対応を継続的に実施していただくことをお願いするものです。(対象はプライム市場・スタンダード市場の全上場会社です。)
- 実施にあたっては、取締役会が定める経営の基本方針に基づき、経営層が主体となり、資本コストや資本収益性を十分に意識したうえで、持続的な成長の実現に向けた知財・無形資産創出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、事業ポートフォリオの見直し等の取組みを推進することで、経営資源の適切な配分を実現していくことが期待されます。
- なお、資本収益性の向上に向け、バランスシートが効果的に価値創造に寄与する内容となっているかを分析した結果、自社株買いや増配が有効な手段と考えられる場合もありますが、自社株買いや増配のみの対応や、一過性の対応を期待するものではなく、継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取組みを期待するものです。
ざっくり要約しますと、「株価にちゃんと向き合いなさい。株価が低迷しているのは資本効率が悪いせいなので、これを改善するべく手を打ちなさい」ということです。「手打ち」には研究開発投資や人的資本への投資などが挙げられていますが、自社株買いや増配などの株主還元にも言及されています。多くの海外投資家はこの「株主還元の強化」に期待して、日本株を物色しているのが現状ですし、実際に多額の自社株買いを発表した企業の株価が大きく上昇してます。
これから上がる銘柄を買う
当然ですが、既に株主還元の強化を打ち出した企業の株価は上昇しているので、今後のさらなる上昇を見込むには、他の材料が必要になります。だから、今は株主還元の強化を打ち出していないけれども、今後検討を進めて強化に動きそうな銘柄を選んで投資することが重要になります。このことに間違いはないと思います。
すなわち、上で見てきた「資本コストや株価を意識した経営の実現」をまだやっていないけれども、これから本気で取り組むであろう企業に投資すればよいのです!
コーポレート・ガバナンスに関する報告書から会社の本気度を読み取る
コーポレート・ガバナンスに関する報告書ってご存知でしょうか?知っていても読んでいる方は少ないのではないでしょうか。上場企業が東京証券取引所のルールに基づき、定時株主株主総会終了後に速やかに提出する文書です。これはコーポレート・ガバナンス情報サービスから誰でも閲覧できます。
コーポレート・ガバナンスが何たるかについては、ここでは割愛しますが、「資本コストや株価を意識した経営の実現」について提出会社がどういう姿勢で取り組むつもりなのかが読み取れるようになっています。
ちゃんとエクスプレイン(説明)しているか、それとも「なんちゃって」コンプライ(遵守)にしているか
企業はコーポレート・ガバナンスに関する報告書で、東証が定めたコードをコンプライ(遵守)しているのであれば、その内容を開示します。コンプライしない場合はその理由や現状の具体的な進捗状況をエクスプレイン(説明)しなければなりません。
そして、「資本コストや株価を意識した経営の実現」は「原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表」というコードに紐づけられています。
この6月に提出されるコーポレート・ガバナンスに関する報告書で、低PBR企業は何かしらのアクションを求められているわけですが、3月に文書出たばかりなので低PBR企業は「エクスプレイン」とし、「検討の上、〇月までに報告する」みたいな開示をすべきなのです。そこを、平然と「中期経営計画にて自社の事業戦略を開示している」みたいな逃げ方をしてコンプライにする企業は多いと思います。そのような企業は株価にコミットする経営を進める確率は低いと思います。
コーポレート・ガバナンス報告書は、1ページ目に「コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由」の記載欄があります。ここにと株価に「原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表」を記載し、「今後しっかり検討するぞ」という意志がにじみ出ていれば、その会社は買いと思います!